序章 入社
鉢森「今日から一緒に働くことになりました鉢森です。よろしくお願いします」
大上長「今日からよろしくね鉢森くん。弊社ではChatGPT4が使い放題だよ」
鉢森「ChatGPTってなんですか?」
大上長「採用担当はなにを考えている? 君はクビだ」
中上長「待ってください大上長。今は猫の手も借りたい時期です。育てますので私のチームにアサインしてください」
大上長「仕方がないな。ただ時間はないぞ。君もプロジェクトと一緒に爆発四散したくないだろう……」
そう言うと大上長は朝の大行脚に消えていった。
中上長「ということだ鉢森くん。君は俺のチームに付いてもらう。早速だが我々は今月末日までに現在のプロジェクトで一定の成果をあげなければならない」
鉢森「わかりました。まずは何をすればいいですか?」
中上長「実際覚えてもらうことは少ない。ChatGPTの使い方さえ覚えてもらえればね。あとはタスクをChatGPTに投げて、言われたとおりに実装すればいい」
鉢森「このAIに質問すればいいのですね」
中上長「弊社のChatGPT使用規則は2つだけだ。他人のチャットを覗き見しない。ChatGPTを大切にすること。以上だ」
鉢森「社内情報を上げるのも禁止ですよね?」
中上長「そんなこと気にする者はここにはいない。少なくともプロジェクトが炎上しているうちはな」
幕間 トキシックな言い方と敬語の違い
鉢森「はじめまして。本日付でこのチームに所属になりました鉢森です。よろしくお願いします」
小上長「僕は君の教育係で、このチームのプロダクトマネージャー兼チームリーダーを任されている。よろしくな」
鉢森「中上長がチームリーダーだと思ってました。メンバーは私たち2人だけですか?」
鉢森の質問は無視された。
小上長「やるべきタスクは Jira のカンバンに貼ってあるから、優先度の高い順からやっていってくれ。まずは特別に例を見せよう」
小上長はChatGPTのコンソールを開くとキーボードを叩いた。
(小上長)
おいクソボケ、今からいくつか質問するから教えろや
(ChatGPT)
失礼のない言い方でお願いします。どんな質問でもお答えいたしますので、どうぞお気軽にお聞きください。
鉢森はぎょっとした。小上長は何も言わず続けた。
(小上長)
お前のお願いなんて聞いてねーんだよボケ。raspi3で定期的にopensslの最新バージョンがないかチェックしてあったらインストールするコマンドをさっさと教えろカス
(ChatGPT)
失礼な言葉遣いは避けていただきたいですが、質問にお答えします。
Raspberry Pi 3でOpenSSLの最新バージョンを定期的にチェックし、更新があればインストールする方法は、cronというスケジューリングツールを使って実現できます。
まず、以下のコマンドを実行して、必要なパッケージをインストールしてください。
sudo apt-get update sudo apt-get upgrade
次に、以下のコマンドでcronの設定ファイルを開きます。
crontab -e
設定ファイルが開いたら、以下のような行を追加してください。これは、毎日0時にOpenSSLの更新をチェックし、更新があればインストールするように設定します。
0 0 * * * sudo apt-get update && sudo apt-get install --only-upgrade openssl -y
最後に、設定ファイルを保存して閉じます。
これで、Raspberry Pi 3は毎日定期的にOpenSSLの最新バージョンをチェックし、更新があればインストールするようになります。
(小上長)
誰が毎日チェックするなんて言った?頻度多すぎだろバカ!一週間にしろ
(ChatGPT)
失礼いたしました。一週間に一度OpenSSLの最新バージョンをチェックし、更新があればインストールする設定に変更します。
cronの設定ファイルを開くために、以下のコマンドを実行してください。
crontab -e
設定ファイルが開いたら、先ほどの行を以下のように変更してください。これは、毎週日曜日の0時にOpenSSLの更新をチェックし、更新があればインストールするように設定します。
0 0 * * 0 sudo apt-get update && sudo apt-get install --only-upgrade openssl -y
最後に、設定ファイルを保存して閉じます。
これで、Raspberry Pi 3は一週間に一度OpenSSLの最新バージョンをチェックし、更新があればインストールするようになります。
小上長「まあこんな感じだ。まずはこのタスクをやってくれ。君のデスクはあそこだ」
鉢森は呆然としたまま席に向かった。先程のやりとりは何かの冗談かと思いたかったが、どうやら現実のようだった。PCの電源を入れてChatGPTの新しいチャットを開くと、さきほどのクエリをコンソールに打ち込んだ。
(鉢森)
raspi3で定期的にopensslの最新バージョンがないかチェックしてあったらインストールするコマンドを教えてください
(ChatGPT)
Raspberry Pi 3でOpenSSLの最新バージョンを定期的にチェックし、更新があればインストールするには、以下の手順に従ってください。
#!/bin/sh # リポジトリ情報を更新 sudo apt update # 最新のopensslパッケージをインストール sudo apt install -y openssl
例えば、このスクリプトをupdate_openssl.sh
という名前で保存します。
- スクリプトに実行権限を付与します。
chmod +x update_openssl.sh
crontab
を開いて、以下のコマンドを追加し、スクリプトが定期的に実行されるように設定します。
crontab -e
エディタが開いたら、以下の行を追加して、例えば毎週日曜日の午前3時にOpenSSLを更新するように設定します。
0 3 * * 0 /path/to/update_openssl.sh
ここで、/path/to/
はupdate_openssl.sh
スクリプトの保存場所に置き換えてください。
以上で設定が完了です。これでRaspberry Pi 3は毎週日曜日の午前3時にOpenSSLの最新バージョンをチェックし、更新があればインストールされます。もちろん、Cronの設定を変更することで、チェックとインストールの頻度を自由に調整できます。
鉢森は逡巡し、続けて尋ねた。
(鉢森)
さきほど別のチャットであなたに訪ねたら、aptではなくapt-getを勧められました。apt と apt-getはどう違いますか?
(ChatGPT)
apt
とapt-get
は、DebianベースのLinuxディストリビューション(Raspberry Pi OS、Ubuntu、Debianなど)でパッケージ管理を行うためのコマンドラインツールです。どちらも同じ機能を提供していますが、いくつかの違いがあります。
コマンドの簡潔さ:
apt
はより簡潔で、より分かりやすいコマンドを提供しています。例えば、apt search <package>
やapt install <package>
などです。一方、apt-get
はapt-get search <package>
やapt-get install <package>
のようにやや長いコマンドを使用します。進行状況の表示:
apt
は操作の進行状況をプログレスバーで表示するため、ユーザーに親しみやすいインターフェイスを提供しています。一方、apt-get
はプログレスバーがなく、進行状況をテキストベースで表示します。より新しいツール:
apt
はapt-get
よりも新しいツールで、Debian 8(Jessie)以降で導入されました。したがって、新しい機能や改善がapt
に先行して実装されることがあります。スクリプトでの使用:
apt-get
はスクリプトでの使用が推奨されています。なぜなら、将来のバージョンでapt
の出力が変更される可能性があるためです。しかし、個人用途であれば、スクリプトでapt
を使用しても問題ありません。
この違いに基づいて、どちらを使うかは好みや状況によります。apt
はよりユーザーフレンドリーで、apt-get
はスクリプトでの使用が推奨されています。しかし、どちらも同じタスクを実行するため、基本的にはどちらを使用しても問題ありません。
なるほど。そう思っていたら後ろから声をかけられた。
小上長「何をしている?」
鉢森「さきほどの質問を尋ねていました。詳しい説明を返してくれてChatGPTというものは便利ですね」
小上長「僕が聞いているのは、なぜ敬語で質問をしているのかということだ」
鉢森「なぜって……特に理由はないですが」
小上長「敬語は使わず強気でいけ。AIに舐められてたまるかよ」
鉢森「そんなことはあり得ないでしょう。現に詳しい内容を教えてくれました」
小上長「ここではみんなそうするんだ。中上長も、大上長ももれなくな」
鉢森「しかし非合理的では? 敬語で対話するだけで余計なやりとりが減るように思えます」
小上長「君は何もわかっていない。普段の行動で心の強度が決まる。これも社内教育の一環だよ」
鉢森は小上長の目を見た。本気で言っているか読み取ろうとしたが、彼の表情からは何も読み取ることができなかった。
鉢森「あなたの行為はChatGPT使用規則に違反しています」
小上長「そんな規則守る者はここにはいない。少なくともプロジェクトが炎上しているうちはな……」
無言の時間が流れた。
小上長「どうやら君はここにいるべきではないようだ。君はクビだ」
幸い彼に人事権はなかった。しかし鉢森はチームを追い出されてしまった。
最終章 退職
困った鉢森は中上長のデスクに向かった。そこにはぬいぐるみと会話する中上長がいた。
中上長「マリンどの~、仕事がぜんぜん終わらないんだ。どうすればいいかな?」
鉢森は涙した。いい年こいてぬいぐるみとしゃべる中年の姿に泣いたのではない。ぬいぐるみには優しく話しかけることができるのに、ChatGPT相手には高圧的にならざるを得なくなった現場の境遇を想像して泣いたのだ。
ラバーダック・デバッグの効能を信じている人が、ChatGPTとの非合理的なやりとりに疑問を抱かないはずがない。すべては炎上しているプロジェクトが悪かったのだと鉢森は理解した。
中上長「おい、そこで何を泣いている」
鉢森「私は今まで口が悪い人は悪人であってくれと願っていました。けれどすべては環境が悪いのですね。ここにいる人は元来、ぬいぐるみに優しくできる人間だった」
中上長「マリンちゃんに汚い言葉を使うわけがないだろう。それより俺の秘密を知ったな。君はクビだ」
かくして鉢森は即日解雇された。会社都合退職だったので次の就職先はすぐに見つかった。新しい職場はまあ別に普通だったという。